体験談(家族・子)


父と私

40代 男性


 父は若い頃から良く飲む人でしたが、2012年に母が癌で亡くなり、その2年後には大変可愛がっていた愛犬も急逝。そこから酒量が一気に増え、徐々に体調も悪化していきました。

 一日中酒を飲み、私の妻がせっかく作った食事も食べず、栄養失調でどんどん瘦せ細り、部屋のベッドやトイレは排尿・排便で汚れていることが日常茶飯事。財布を取り上げ、靴箱をロックしても、どうにかして酒を手に入れ飲んでしまいます。私たちの言う事を全く聞きません。そんな父の状態に困り果て、父の担当ケアマネさんに相談。色々調べていただいて、紹介された「名古屋市精神保健福祉センターここらぼ」へ、2019年6月4日、私は妻と二人で相談に行きました。入院治療の話など聞けたものの、高齢の父を今さら入院させたところで・・と半ば諦めかけていたそのわずか2日後、決定的な出来事が起こりました。真夜中の3時ごろ、2階の居間から聞こえる小銭の音で、私は目が覚めました。父の部屋は1階で、私達の寝室は3階。この頃の私は帰宅すると自分の財布を2階の居間に置いておくことが日常でした。泥棒でも入ったのかと恐怖を感じつつ、居間の様子を伺いました。階段を降りてゆく足音、そして玄関扉の開閉音。追いかけると、スリッパを履き、杖を持ち、ヨロヨロと足を引き摺り歩く父の後ろ姿。泥棒は父でした。息子の私の財布から夜中にこっそりお金を盗っていたのです。行先は近くのコンビニと確信した私は父を尾行しました。ワンカップの焼酎を2本手に持ち、父が支払いをしようとした瞬間、私は怒鳴りながらコンビニに飛び込みました。私は店員さんに詫びワンカップを返し、父を引き摺り家に連れ帰りました。そして生まれて初めて父に怒鳴りました。怒鳴り声に気付き起きてきた妻と猫。特に猫は私の様子に震え上がり、しばらく私の元にちかづくことはありませんでした。

 この日の昼、怒りのおさまらない私は八事病院へ電話相談し、6月27日の診察予約を取りました。診察日の朝、私は父の了解を取らぬまま父を車に乗せ、妻と3人で八事病院へ。先生から「アルコール依存症です、入院しましょう」と父を説得していただき、なんとか7月1日から3ヶ月間の入院が決まりました。

 「やっと父から解放された」と心から思いました。実際には解放されたわけではありませんが、父の入院中に依存症について勉強し、先生や先輩方にアドバイスをいただき、退院日に備えて準備をしました。退院翌日の10月1日には、断酒会に入会し、今日まで父は飲酒することなく過ごすことができています。

 今後も決してあの日に戻ることがないよう暮らしていけたらと強く願います。