2023/07/09 更新

体験談(シングル)


神様は見ている

50代 男性


 約三十年酒を飲み続けてきた。最初は友達との付き合い程度の酒だったが、高校を卒業して陸上自衛隊に入隊して上官や先輩方と一緒に飲む様になると、つぶれるまで飲まされる様になった。そうして鍛えられて酒に強くなったのだが、気が付けば酒を飲まなければ眠れない体になっていた事と少々の酒では酔わない様になっていた。

 陸上自衛隊は五年半程で退職したが、それからというもの運送会社、タクシー会社、土木作業員、解体作業員など仕事を転々としてきた。転々とした原因も酔ってケンカしたり、二日酔いで仕事を休んだりと酒がらみの事ばかりだった。十ヶ所以上仕事を転々としたが、選り好みさえしなければ仕事はすぐに見つかった。ほとんど食事付きの寮のある仕事だったので食費、寮費を引かれた給料は全額自由に使えたので給料の大半は酒で使った。お金がある内は自由に酒が飲めたが問題はお金がなくなってからだ。酒飲むのを我慢すればいいのだが、それができなかった。

 そこで思い付いたのが寺、神社に行く事だった。寺、神社に行くと言っても何もお参りするのではない、賽銭を盗んだり、お供え物の酒を盗む事が目的だった。かと言って賽銭箱を壊す様な勇気はなかった。せいぜいお地蔵さんの前の小銭をこっそり盗むくらいで、たいてい一円玉か五円玉、あって十円玉だった。それを何ヶ所か回って集めて集めたお金で「鬼ごろし」の小さいパックを買ってストローで「チューチュー」吸っていた。運がいい日は五百円玉があったり、お供え物に一升ビンがあったりして「ああ、神様って本当にいるんだなぁ」とありがたくいただいた。

 しかし、悪い事はするもんじゃない。ある寺でとうとうお坊さんに見つかってしまい車で追いかけられた。なんとか逃げきったが…それ以来寺、神社には行かなくなった。ただそれ以降バチが当たる様に酒が原因で吐血したり幻聴を起きて最後には精神科の病院に入院した。

 そう「神様は見ている」のだ。今はしっかり断酒しているおかげで健康的な生活が送れている。もちろん賽銭泥棒などもする必要がない。これからも「神様は見ている」という事を忘れずに悪い事はせず、しっかり断酒して健康的な生活を送りたいと思う。